【導入事例】

集英社が、データと過ごした1年半。
PV数を約5倍に伸ばすまでの取り組みとは

株式会社集英社さま。1926年(大正15年)に設立され、『週刊少年ジャンプ』『週刊プレイボーイ』『non-no』をはじめとする数多くの雑誌・書籍を世に送り出し、近年では『鬼滅の刃』が国民的な大ヒットを記録。名実ともに、日本を代表する出版社です。

一方、同社はファッション・ライフスタイル誌系の公式SNSの総フォロワー数1,969万人、WEBサイトの月間ユニークユーザー数2,103万UUを誇る、デジタル化を強く推進している企業でもあります。

メンバーズデータアドベンチャー(以下、メンバーズDA)は、2019年頭から同社に常駐でのサービス提供を開始。「MEN'S NON-NO WEB」「WEBUOMO」を始めとする4サイトの解析を担当し、様々な要因が重なった結果としてPV数を5倍まで引き上げることに成功しました。

こうした成果を出すまでは、どのような紆余曲折があったのでしょうか。雑誌デジタル編集室部次長兼室長の西河淳(にしかわ・あつし)氏と、同社に常駐して1年半になるデータアナリスト・小川さんに話を伺いました。

(取材日:2020年9月17日 構成:澤山モッツァレラ)

 

 

メンバーズDAに発注した理由

――メンバーズDAと取引する以前、御社の課題はどこにあったのでしょうか?

集英社・西河淳さま(以下、敬称略) 活用すべきデータ自体は存在したのですが、アクションに繋げることに課題を抱えていました。

弊社にはMEN'S NON-NO、UOMO、週刊プレイボーイといった男性誌のサイトが複数あり、PianoというDMPを使ってデータマネジメントしています。

ただ、データ解析の専門家が少なく、制作会社さんから週次・月次でレポートを受けてはいましたが、アクションまで有機的につながっていないのが実情でした。

そこで2019年頭に、当時の上司からメンバーズDAさんを紹介してもらったのがきっかけです。

 

――最初は、何から着手してもらいましたか?

西河 改善点の洗い出しからお願いしました。4サイトあるため、すごいボリュームでしたね。プリントアウトしたら、A3用紙に文字がびっしり。呆然としたことを覚えています(苦笑)。

当初はデータ分析以外も着手しようとしたのですが、2019年夏ごろから「日々のデータを取得し、深掘りし、提案してもらう」方向性に固まりました。

メンバーズDA・小川(以下、小川) 私は2019年2月から常駐に入り、まずはレポーティングから開始しました。

当初苦戦したのは、データ集計の自動化ですね。プラットフォームの仕様上、CSVデータを一括で取得出来なかったことに加え、分散メディアごとに1つ1つサイトへアクセスしなければならないため、工数がかかっていました。一部は一括で落とせるのですが、最初はどうしても手打ちで対応する必要がありました。

PythonでAPIを叩いて数値を抽出し、エクセルに落とし込むことで徐々に手打ちの頻度を減らしていきました。データ収集の自動化を担うエンジニアさんが入ってからは、より効率よくデータを落とせるようになりました。

 

 

様々なデータが可視化され、深い議論が可能に

――データを自動取得できる環境が整って以降、どのような変化がありましたか?

西河 Google Analytics(以下、GA)のアクセスログやPianoのデータはもちろん、そこでは取れないデータまで網羅できるようになりました。例えばWEBUOMOという動画メインのサイトでは、管理画面でも取得できない数値があります。「何とか取れないか」とお願いしたら、データを自動取得できるプログラムを組んでいただきました。

MEN'S NON-NO WEBでも「訪問頻度別のデータを見たい」「月30回と月1回訪問に分け、行動パターンを解析したい」とお願いしたところ、こちらはGAやPianoを使ったダッシュボードを組んでいただきました。

様々なデータが可視化された結果、より深く踏み込んだ議論ができるようになりましたね。

 

――解析以外で、メンバーズDAから提案したことはありますか?

小川 MEN'S NON-NO BEAUTY(現在はMEN'S NON-NO WEBに統合)では、AI画像検索を用いたヘアカタログをご提案したことがあります。「短い/長い髪型ならこれがオススメ」というものですね。

また、当時あったチャットボットの機能として「顔の形から髪型を提案する」改善案も提出しました。もともとは中国企業が用いた技術で、日本ではZOZOさんが取り入れているものです。MEN'S NON-NO BEAUTYでは髪型ベースの検索しかなかったので、「この顔の形なら、この髪型」といった関連記事を出せるよう提案しました。

他には、関連記事のチューニングを行ないました。例えばユニクロさんやアディダスさんを扱った記事は人気なのですが、関連記事が必ずしも最適化されていないケースがありました。分析画面から「アディダス好きは、アディダスの記事に回遊する」というファクトを提示し、改善に繋げました。

 

メンバーズDA常駐後に起きた、大きな変化

――メンバーズDA常駐後、最も変化した部分はどのあたりですか?

西河 編集部全体で、データを重視するようになったことですね。

表面的なPVやUUで一喜一憂するのではなく、流入経路や検索KWを意識したり、訪問頻度別で行動パターンを見たり、インサイトを深読みしたり。

WEBサイト、SNS、SEOなどデジタル施策全般について多面的に見られるようになったことは大きな変化ですね。

小川 常駐開始のころと比較しても、オーダーの粒度が変化した感はあります。当初は手探り感がありましたが、最近では「何が要因で数字が変わったのか」といった細かい視点からのオーダーが増えました。「GAを自分で観たい」という相談も増えています。

もちろん編集部の皆さま、関係各所の頑張りあってのことですが、常駐開始から1年半で各メディアの数字はすべて伸びており、PVは最大で約5倍になっています。スマートニュースやヤフーニュース等、分散メディアからの集客も大きく伸長しています。

西河 地道にデータをとり、改善を重ね続けてきた結果だと思っています。(WEBメディア運営において)至極当然なことと思いますが、ウチの男性誌メディアではできていませんでした。

 

「小川さんなら、形にしてくれる」

―― 小川さんについての評価は、いかがでしょうか?

西河 こちらの無理難題や(苦笑)ふわっとした疑問を、丁寧にデジタル言語化して応えてくれますね。頼りにしています。

弊社は関係者が多いため、全体として小川さんに何を聞けばいいかわかるのが会議前日といったケースもあります。1人常駐体制なので、負荷はそれなりに高いはずです。

ただ、厳しい条件であってもデータが取れる取れないを明確にしたり、A方式で無理ならB方式を試したり、課題が見えないときは気づきを共有したり、現状使える範囲のツールを探してくれたり。

スキル面はもちろん、そうした粘り強さや頑張りといった部分も信用しています。「大変だけど、小川さんなら形にしてくれる」と思っています。

 

――ありがとうございます。事前のヒアリングでは「発想力、情報感度の部分が得難い」という評価も頂戴しています。

西河 そうですね。年齢的に若く女性である点においても、男性誌サイトの内部では貴重な視点になっています。

例えば、Twitterではテキストを画像化したものを添付し、URLへ誘導する施策を提案いただきました。画像+URLという形でツイートし、興味を持った方をWEBサイトに来ていただくものです。ユーザー習慣をよく掴んだ、SNSネイティブならではの発想だと思いますね。

また、MEN'S NON-NO Twitterのフォロワーは専属男性モデルのファンである女性が多い傾向から、記事内容紹介ではなく、より男性モデルをフィーチャーした更新にしていただいたり。直接のターゲット向けではないですが、認知向上を達成することで結果的に本来のターゲットにも届かせる狙いで行なっていただいています。

データアナリストでありながら「人間が読む」視点も持ったうえで、WEBなりSNSなりのユーザーに刺さる提案をいただいています。

 

 

今後、小川さんに期待すること

――今後、小川さんにどのようなことを期待しておられますか?

西河 先ほども述べたとおり、データ解析に加えインサイトやトレンドを加味した提案をいただき、感謝しています。

強いて課題を挙げれば、ある種の遠慮というか「ひょっとしたら、自分の提案は間違っているのでは」と考えている部分もあるのかなと。勝手な言い分ですが、過度に恐れることなく、硬軟取り混ぜた意見をいただけるとうれしいですね。

 

――常駐者の小川さんは今後、どういう貢献をしていきたいですか?

小川 引き続き、データ解析とともにアイデア面での貢献もしていきたいです。体制面が今後どうなるかわからない部分もありますが、分析依頼が増えていけば、後輩たちもこの案件に関わらせていただいて、一緒により深いご提案をできればと考えています。

理想は、1メディア1アナリストの体制ですね。メディアごとに企画制作のスペシャリストの皆さんがいる状態で、データのスペシャリストもいるような体制にできれば。メディアの特性やブランドを理解した上で、既存の人気記事をさらに伸ばすことはもちろん、伸びしろがある記事をさらに引き上げるなどして人気記事を増やしていければ、メディアとして理想的な状態にしていけるのではと思います。