【導入事例】
社内に眠るデータを武器に「次世代型ショッピングセンター」実現へ

左からメンバーズデータアドベンチャー 村上郁哉、苅部佑馬
東神開発株式会社 松尾孝康さま、鵜飼美佳さま、石場望愛さま、田中大貴さま
髙島屋グループの一員としてショッピングセンターを中心とした不動産の開発・運営を担う東神開発さま。同社は、地域社会に新たな価値を提供するため、社内に蓄積されたデータの高度活用に挑んでいます。
今回は、メンバーズデータアドベンチャー(以下、DA)の「データ領域プロフェッショナル常駐サービス」を活用しながら、進められているプロジェクトについての座談会を開催しました。参加者は東神開発SC事業本部マーケティング部マーケティンググループ(以下、マーケティンググループ)の鵜飼美佳さまと田中大貴さま、石場望愛さま、そして現場で伴走支援を行うDAのデータアナリスト 苅部佑馬さんとデータエンジニア 村上郁哉さんの計5名です。
小売や店舗運営に携わる企業をはじめ、データ活用に悩むすべての企業にとって示唆に富む内容となった座談会の内容をご紹介します。
(取材日:2025年12月25日 取材・文:本間 幹)
長年蓄積した資産を「健康診断」で終わらせないために
―― まずはマーケティンググループのミッションを教えてください。
鵜飼美佳さま(以下、敬称略) 当社は、1969年の玉川髙島屋ショッピングセンターの開業から50年以上、商業施設を中心とした開発・運営を国内外で進めてきました。最近では、オフィスや住宅などの不動産も手掛け始めていますが、主力となる事業はやはり創業以来続く「ショッピングセンター事業」。国内では、百貨店の髙島屋を核とするショッピングセンターを管理・運営し、入居するテナントさまからの家賃を主な収入源としています。
その「ショッピングセンター事業」の中で、私たちが所属するマーケティンググループは、国内のショッピングセンターの運営管理や、テナントさまに有用な情報の提供、新規開発や既存施設のリニューアルを行うために必要な情報の取得・分析、さらには新たなマーケット手法の研究などをミッションとした活動を行っています。
―― 必要な情報とは、具体的にはどのような情報を指しているのでしょうか。
鵜飼 主なものは、商圏やマーケットに関するデータです。また既存施設の来店客数や各店舗の売上、さらにはご来店いただいたお客さまへのアンケートの結果なども扱っています。
―― 2024年8月からDAのデータ領域プロフェッショナル常駐サービスをご活用いただいていますが、導入の際に直面していた課題を教えてください。
鵜飼 当社では、いまお話したようなデータを、長年蓄積してきました。しかし、このデータをうまく活用できていないことに課題を感じていたのです。
田中大貴さま(以下、敬称略) 鵜飼がいうように「データはあっても、使い切れていない」状態だったため、データドリブンマーケティングを進めようにも取り組みが本格化しないという課題にも直面していました。
かつてGPSやビーコンなどを使って、施設内の人流を可視化する取り組みを進めたことがあります。検証の結果、マーケティング活動を高度化させるために有用であることはわかったのですが、結局その後が続きませんでした。データは手に入るものの、それをどう扱うべきかという「知見」と「環境」が不足していたからです。
鵜飼 当社の施設にいらっしゃるお客さまを対象にしたアンケートも、年に一度の「健康診断」で終わってしまっていたのです。
しかし、経年でデータを比較したり、売上データなどとかけ合わせたりして分析すれば、新たな課題や気づきが得られるのではないか? そう感じたのです。
―― そこでデータ活用に関して不足しているケイパビリティを補うために、DAにお声がけいただいたのですね。
鵜飼 その通りです。
――必ずしも常駐型のサービスを利用しなくても、不足するケイパビリティを補えます。なぜ貴社が選んだのはDAのデータ領域プロフェッショナル常駐サービスだったのでしょうか。
鵜飼 最終的な目標としてデータ活用の内製化を掲げていたことが大きな理由です。外部委託ではスキルの蓄積は難しいと感じていたので。
以前の体制では、アンケート調査の結果について新たな視点で分析する際、簡単なクロス集計もアンケートを実施する協力会社にお願いしていました。それではクイックに進めたい簡易な仮説検証ですら時間がかかってしまう。そのような状況から抜け出すためにも内製化を進める必要があったのです。

既存環境を活用しながら成功に導くスモールスタートの極意
―― 苅部さんがデータアナリスト、村上さんがデータエンジニアとして常駐を開始したのは2024年8月のことでしたね。最初に東神開発さまからはどのようなオーダーを出されたのでしょうか。
鵜飼 まずは社内に眠る膨大なアンケート調査の結果などを活用しやすい形に整備してもらうことをお願いしました。当時は、データの活用を高度化したいという思いはあるものの具体的に何をすればよいのかが分からないので、漠然とした依頼内容になってしまいましたが、苅部さん・村上さんが意図を汲み、具体的な整備や提案を進めてくださいました。
苅部佑馬さん(以下、敬称略) いただいたご要望を実現するためにデータ分析環境の整備に取り組みました。また、最終的な目的であるデータ活用の内製化を実現するために、マーケティンググループの皆さんに向けて、マーケティングリテラシーの向上を図る取り組みも進めました。
村上郁哉さん(以下、敬称略) 最初に取り組んだのは、来店者のアンケートデータを加工して集計する環境整備でした。各施設から届く膨大なスプレッドシートのデータを「Power Query」というデータ処理ツールを使って、自動で整理、加工する仕組みを構築しました。
――東神開発さまでデータの管理に使われている「Microsoft Excel」のドキュメントをそのまま活用したということですね。
苅部 いきなり大規模な改革を行うのではなく、現場で使い慣れた「Microsoft Excel」を活用し、早期に成果を出すことを重視しました。
その理由は「スプレッドシートでも使い方次第でここまで便利になる」ことやデータ活用の価値を東神開発の皆さんにいち早く味わって欲しかったから。既存の環境を最大限活用し、スモールスタートでプロジェクトを進めることができました。
田中 Excelの利用環境を整えてもらった効果を実感するまでに、それほど時間はかかりませんでした。例えば、施設ごとにバラバラに管理していた収支表や家賃の計算管理表は手作業でコピー&ペーストして1つのドキュメントにまとめていましたが、自動化されてこのプロセスが不要になりました。数ヶ月かかっていた作業が一瞬で完結するのは衝撃的な体験でした。
石場望愛さま(以下、敬称略) 私は各施設における入店客数の上位店舗を可視化する業務を担当していました。当初は膨大なデータを目視で確認しながら手入力していましたが、村上さんに相談したところ、自動で集計される仕組みをサッとつくってもらって――。煩雑な業務から解放されたおかげで「データをどのように見れば価値を高めることができるのか」という、より本質的な業務の検討に時間を使えるようになりました。

専門家の目利きが導いた
最短ルートの基盤構築
――現在は、クラウド基盤の構築を進めているとのことですが、苅部さんと村上さんが担当している業務内容を教えてください。
苅部 クラウド型のデータ分析プラットフォームである「Microsoft Fabric」を導入し、データ活用基盤を整備している最中ですが、私は主に「Microsoft Fabric」に標準装備されているBIツール「Power BI」のダッシュボードの作成を担当しています。
村上 私は、既存のExcelデータを「Microsoft Fabric」に格納するためのデータクレンジングや「Power BI」にデータを送るためのパイプラインの構築を進めています。

――「Microsoft Fabric」を提案したのには、どのような意図があったのでしょうか。
苅部 やはりデータ活用をより本格化させるには、「Microsoft Excel」だけで運用していくのは困難です。過去から将来まで、数十年分の売上データや客数データを一元管理し、より効率的にデータを活用するには、データを蓄積し、分析するための仕組みが求められます。私たちが提案したのが、データレイクとデータウェアハウス、BIツール(Power BI)が1つのプラットフォームに統合された「Microsoft Fabric」だったのです。
村上 ただ「Microsoft Fabric」は、2023年にリリースされたばかりの比較的新しいサービス。そのため、巷にはまだ情報が少なく、エラーが出ても解決策がなかなか見つからないといった状況でした。そのため、実装にあたっては試行錯誤の連続でした。それでも、苅部さんがこのツールを選んだ判断は間違っていなかったと思います。
苅部 私が「Microsoft Fabric」が最適だと判断したのは「導入の速さ」を担保できるからです。例えばMicrosoftが提供する代表的なクラウドサービスである「Microsoft Azure」を利用するとなると構築する基盤の規模が大きくなりがちです。そうなると情報システム部門との調整が必要になり、時間がかかる。その点「Microsoft Fabric」ならばマーケティンググループさま単独の取り組みとして進めやすい。また将来に全社展開する際には、「Microsoft Azure」への移行もスムーズにできる拡張性もある。このような点を考慮して「Microsoft Fabric」の導入が最適解だと判断したのです。
鵜飼 正直、私たちだけではどのツールが最適か、判断しようがありません。最新の情報もキャッチアップして、現場に最適なものを提案してくれるのはとても心強い。いずれにせよ苅部さんも村上さんも、当社の業務やITリテラシーレベル、組織文化を理解してもらった上で、私たちに最適な選択肢を提示してくれました。このようなことが可能なのも、常駐してもらっているからこそですね。
苅部 DAの支援は、データアナリストとデータエンジニアが一丸となって、お客さまの成果につなげるという考え方がありますが、そのような点も影響しているかもしれません。
――今回のプロジェクトでは「内製化」の実現が最終的な目的だというお話がありました。この目的を果たすために、現時点で行っている支援の内容を教えてください。
苅部 月一回程度、マーケティンググループの皆さんに向けて勉強会を開催しています。Excelを使ったデータ加工方法から統計的な分析手法の解釈まで幅広くお伝えしています。
村上 また、たとえ私たちがいなくても、データの加工や分析やできるように、私たちが取り組んでいる業務手順のマニュアル化を進めています。

社内のデータに対するアレルギーを払拭し
「次世代型ショッピングセンター」の実現へ
――構築されたデータ分析環境は、すでに現場の運営にも活かされているそうですね。
田中 本格稼働は今月(2026年2月)ですがすでに「Power BI」のダッシュボードの一部の機能を使って、売上高や客数、買上客数などを期間指定で自在に確認できるようになりました。
おかげで、月一回、施設内のテナントの店長の皆さんが集まる「店長会」で発表する情報の質が変わっています。以前は数字が羅列された紙を渡して終わりでしたが、今はグラフ化してタイムリーな情報をフィードバックすることができています。
その他にも、顧客調査で得られた複数の項目をクロス集計できるようになり、分析の精度や幅は確実に広がりました。例えば、ある店舗の利用頻度が上がったのが、若い顧客を狙った店舗のリニューアルの効果だという仮説を立てたとします。この仮説を検証するために、来店者に過去に同じ店舗を利用したことがあるかという設問の答えや来店者の年齢層と現在の来店者数をかけ合わせれば、その仮説が正しいのかが明らかになるという訳です。
鵜飼 個人的には共起ネットワーク分析や感情分析、クラスター分析という手法を活用して、お客さまアンケートの結果からこれまで見ることができなかったインサイトを得ることができるようになったことが印象に残っています。
苅部 アンケートデータにはちょっとした癖があるので、クラスター分析を行うには、DA社内のドキュメントや知見を参考に最適な手法を導き出しました。DAにはデータ分析基盤構築の事例が豊富に蓄積されているので、常駐スタッフである私を窓口として、組織全体のスキルを自在に引き出せることはお客さまに提供できる価値の1つだと考えています。
鵜飼 「Power BI」のダッシュボードが完成したあかつきには、取り組みを全社展開させていくつもりです。社内にはデータを扱うことに苦手意識のある社員も存在します。そのような人たちを巻き込みながらDXを進めていくためにも、今回のように小さく早く成果を出せるような取り組みは価値があると考えています。

――これまで眠っていたデータが、いよいよ「現場の武器」へと変わりつつありますね。
鵜飼 私たちは、ショッピングセンターの開発・運営を通して、地域の方や訪れる人に心の寄りどころを提供すると同時に、ご出店者の皆さまには「東神開発の施設に出店してよかった」と思っていただけるような価値を提供し続けることを目指しています。そのためには、私たちが運営するショッピングセンターを、データに基づいた「次世代型ショッピングセンター」へと進化させることが欠かせません。このビジョンを確かな形にするためにDAの伴走型サポートはなくてはならない力だと実感しています。さらに、我々だけでは気づけない新たな視点での提案で、次のステップに導いてくれるような役割にも期待しています。
