【導入事例】
コロナ後の「auでんき」のDXを推進
KDDI株式会社さまが展開するサービス、「auでんき」。auユーザーのためのサービスであり、「電気料金そのまま、ポイント加算システムで、今の電気料金より実質高くなることはない」ということをアピールポイントにしておられます。
一方で、累計契約者数約6,012万900人(2020年12月末時点)というメガブランドゆえ、データの集約と分析に課題を抱えておられる部分もあったようです。
どのような課題があり、メンバーズデータアドベンチャーはどのように解決を試みたのか? 同社パーソナル事業本部サービス統括本部エネルギービジネス推進部課長補佐・谷徳愛さま(写真中央)、同部課長補佐・澤井秀高さま(右端)、同部・原田みな美さま(右から2番目)、同社サービス統括本部UXビジネスプロセス企画部課長補佐・牧田起世子さま(左から2番目)、メンバーズデータアドベンチャー所属のデータアナリスト陳さん(左端)にお話を伺いました。
(取材日:2021年4月5日)
コロナ禍まで「WEB受付は難しい」でした
――まずは、メンバーズデータアドベンチャー(以下、メンバーズDA)が支援に入るまでの御社の課題について教えてください。
KDDI谷徳愛さま(以下、KDDI谷) その説明に入る前に、「auでんき」というサービスについて説明させてください。
2016年4月に始まったauでんきは、いわゆる「説明商品」と考えていました。auショップ店頭にお客さまが来店され、ショップスタッフがサービス内容を事細かに説明しないとお申込みいただけないサービスと思っていました。
基本的に我々としては「店頭でしかお申込みいただけない、WEBでのお申込みは難しい」という認識でした。当然、WEBからどうやってお客さまにお申込みいただくか、そもそもどうやって認知いただくか、という意識が全くない状態でした。
それが、今回のコロナ禍において、お客さまにご来店いただくことが一気に難しくなりました。そうするとWEBからの導線が重要となり、改めて「どうすればWEBからのお申込みを認知いただくか、また申込みいただきやすくできるか」と考えるようになり、陳さんにアドバイスをもらいながら改善を始めたのが経緯ですね。
――当時、データを専任で扱う担当者の方はいらっしゃいましたか?
KDDI谷 当時はWEBとアプリを同じチームで担当しており、Google Analytics(以下、GA)を使って実績は取得していましたが、担当者が日次の実績をエクセルに貼り付けて展開している状態でした。その担当者以外に実績を取得できる者はおらず、全体的にデータへの意識が低い状態でした。
KDDI牧田さま(以下、KDDI牧田)「サービス統括本部」では、お客さまのライフスタイルに応じて様々なサービスをご提案するために各サービスの企画・運営を行っていますが、各サービスにおいて、改善をおこなうグロース活動の取組ができていないことが課題でした。2020年度上期からUX・ビジネスプロセス企画部でグロース活動に取組むチームを組成し、サービスグロース活動(UX改善によりユーザーのベネフィットを高め、サービスの継続的な成長を実現する活動)への理解と浸透の取組を始めました。
グロース活動に取組むチーム組成にあたり「グロース活動を推進できる知見・経験を持つ人材が必要である」、というところから貴社にオーダーを出したということですね。
ドメインをまたぐデータ取得を、どうやって実現させたのか?
――そこでメンバーズDAから陳さんが派遣され、牧田さまと陳さん、エネルギービジネス推進部から谷さま、GAを使える派遣社員1名というチーム体制になったのですね。最初は、どういうことから着手されたのですか?
メンバーズデータアドベンチャー陳(以下、陳)最初は、サイトの理解から始めました。まず谷さんにヒアリングシートを送り、サイトの目的、KPI、活用媒体、ドメイン、サイトの範囲など細かくヒアリングさせていただき現状把握から、課題抽出を行いました。
取り掛かるべき課題は2つありました。1つは「GA上でデータが分断され、ユーザーの一連の行動データ(流入〜回遊〜CV)が取れない」ことでした。
もう一つの課題は、「WEB改善のPDCAサイクルを回す体制がない」ことでした。WEB上での申込数向上を意識して取り組んでいなかったため、必然的な課題でした。
KDDI谷 先ほど申し上げたとおり、これまでGAで「ユーザーの一連の行動データが取れる」と言う認識がありませんでした。また当時は陳さん、牧田さんから「KPIは何ですか?」「この数字がほしいです」といった依頼が来ても回答が遅くなることもあり、結果プロジェクトのスタートがどんどん遅れてしまいました。振り返るとデータ取得への意識の低さが現れていたように思います。
陳 でも、今はレスポンスがとても早くて助かっています。
――ありがとうございます。その後、クロスドメイントラッキングについて着手されたのですね。
陳 そうですね。私が入る1年前ぐらいにも着手しようとして、その時は頓挫したと聞いています。
KDDI牧田 当時の担当者が過去にクロスドメイン設定を試みて社内で相談したそうですが、結果「できない」と回答が来てしまい、相談相手が陳さんほどの知見を持っていなかったから、クロスドメイン設定が進まなかったのだと思います。
陳 当時実現できなかった理由としては「auID」ページにはGAが設定されているのですが、そのページをクロスドメインの設定範囲に入れると、「auでんき」と「auID」に関するデータをGAで2重計測することになり、課金もダブルで発生することになります。さらに1つのサービスを対応させると「他のサービスも同様に対応してほしい」となり、計測費用が嵩張る懸念もあり、安易にauIDをクロスドメイン設定範囲に入れることはできなかったと思われます。
どのように課題を解決したかというと、「auID」ページに「auでんき」のGAを入れず、クロスドメインで「auID」ページを通過したセッションが切れないように設定して解決しました。
――auIDのページを迂回して、「このセッションは別サイトに行っているわけではないよ」という設定をしたのですね。
陳 そうです、参照元を除外しました。恐らく、当時の担当者はそこまで踏み込めなかったのではないかと思います。
――今回のクロスドメイン設定により一連のユーザーの行動データが取得できる環境が構築されたことは見方によってはDXが達成できたとも言えますね。
陳 そうですね。DXの定義にもよりますが、一歩前進したのではないかと思います。
部署全体のデータに関する意識が高まった
KDDI谷 クロスドメイン設定をしたのは、大きな転機だったと思います。それまでは「ユーザーの一連の行動データは取得できないもの」という前提で考えていました。実現するには何かしら費用をかけて作り込む必要があると思っており、諦めていました。
陳さんに実現してもらったことで、「実は簡単にできるじゃん!」と気づき、その結果これまで申込み数の結果しか見てこなかった人たちが、他の部分(遷移率や離脱率)まで関心を示し始めたことがエネルギービジネス推進部の本部内に現れた、大きな変化だと感じています。
――ありがとうございます。陳さんは、他にもいろいろな課題を解決されたようですね。例えばLPのコンバージョンレートの改善や、Googleデータポータル(以下、GDP)を構築して、年間の作業時間を260時間削減したとか。
陳 そうですね。最初にプロジェクトで提案したのは、クロスドメイン設定だけではなく、並行して最低限のPDCAを回さないといけないと思っていました。
まずは「お得割キャンペーン」の解析を行い、追従型コンバージョンボタンを設置したことでコンバージョンレートを大幅に改善しました。
またGAの実績更新作業に課題があることを聞きましたのでGDPを構築しリアルタイム解析できるようにしたらすごく好評でした。
陳 下期では申し込みフォームの解析を行い、いくつか改善案を出してABテストを行なった結果、200%ほどの改善率になりました。他にも、「auPayアプリキャンペーン」も2回ほど改善提案をさせていただき、最終的に128%の改善率を達成しました。
これまでWEB改善のPDCAが回っていなかったので、GAの指標の定義が組織内で共通認識されておらず共通言語を持ったほうが良いと考え、GAのレクチャーとGDPのレクチャーを3ヶ月で計10回行いました。
レクチャーを行ったことで組織内のレベルアップに貢献できたと思います。
――すごいですね、かなり盛りだくさんですね。
陳 他にも業務基準書を2つ作成しました。1つは、サイトまたはLPページ公開した際のデザイン、コーディング、GA関連の設定やSEOチェックなどの手順書で、2つ目は施策実績表です。今まで過去のデータが蓄積されていないと伺いましたので、今後施策を企画・実施する時に目標設定や稟議申請前の参考値として活用できるよう「過去のデータから試算できる」仕組みを提案しました。
――皆さんから見て、陳さんがプロジェクトに入ったことでどのような変化があったか教えて下さい。
KDDI谷 そうですね、全体の実績をGDPで見られるようになったのが大きいですね。
先ほど年間260時間の作業時間削減という話もありましたが、GDPを設定いただいたことで、その実績更新作業をしていた担当者は別の業務に時間を割けるようになり業務効率の向上にも繋がりました。
さらにエネルギービジネス推進部約50人がGDP閲覧可能となったことで、WEBからの申込数の関心が高まりました。これが、最も大きな効果だと感じています。
KDDI澤井さま 私と原田は、2021年1月からauでんきの担当になりました。通常はユーザーの行動データをもとに施策や販促を検討していくのですが、これまでベースとなるデータが全く取れていなかったことに最初は驚きました(苦笑)。UX観点からお客さまがどれぐらい使って、こういう行動をする、だからこのような施策が効果的であろうと仮説が立てられない状況でした。
でも、陳さんがプロジェクトに参画してから、我々1月異動組から見ても部署全体が「データ」への興味関心が高まり「GAどうなってる?」「昨日の数字は?」という会話が日常で明らかに増え、数字を意識し始めてる空気感は如実に感じました。
また陳さんはレベルの高いスペシャリストなので、私も含め素人が見ても分かるようなGA・GDPのマニュアルを作成してくれたのですが、素人目線にレベルを合わせて情報を落とし込むのは大変な作業だったと思います。
「業務効率化に貢献した案件として社内表彰」された理由
――今回グロースチームが、「業務効率化に貢献した案件として社内表彰」されたと伺いました。社内でも高い評価を受けている証だと思いますが、お二方から見た陳さんへの評価をお聞かせください。
KDDI牧田 表彰については解析環境の構築から、LPの改善、また定量的な成果に繋がったこと、GDPの構築による業務改善が評価されました。
この取組については、陳さんの功績がとても大きいです。
メンバーズDA・白井 陳がやっていることは単に担当者としてDXを実行していくにとどまらず、KDDIさんのデータ活用文化を底上げし、延いては御社の競争力の底上げに寄与している部分もあるのでしょうか? 聞き方としてやや欲目が出ていますが(苦笑)。
KDDI牧田 あると思います。社内の課題として、各サービスのグロース活動を定着させていきたいと思っています。そのためには、ユーザーの一連の行動データが取得できる環境があってこそ成り立ちますので、でんき以外のサービスで環境構築が出来ていないサービスがあればサポートを行い、取得したデータを分析して当たり前にPDCAサイクルが回せる環境にしていきたいと思っています。
引続き、陳さん、メンバーズDA様にはUX部と共にサービスグロースの理解と浸透活動にお力添えをいただきたいと思っています。