【DX戦略】物流におけるデータ活用とは?サプライチェーンを最適化する戦略とメリット

ナレッジ
2025.07.07
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物流業界では、「2024年問題」や人手不足、燃料費や人件費などのコスト高騰といった構造的課題が顕在化しています。効率化と競争力維持の両立が求められる中で、今、改めて注目されているのが「データ活用」です。本記事では、物流現場やサプライチェーン全体の最適化を目指す企業・担当者向けに、今回は以下をお伝えします。

  • ・物流業界におけるDX推進の必要性
  • ・データ活用の具体的メリット
  • ・サプライチェーン最適化と4PLの役割
  • ・実際の物流システム活用例
  • ・DX推進に向けた実践ステップ

執筆者のご紹介

名前:川口翔太

  • 所属:株式会社メンバーズ メンバーズデータアドベンチャーカンパニー サービス開発室
  • 現在はエンタメ業界でのデータ活用支援に従事。過去には金融業界での機械学習モデルの開発やBIダッシュボード構築など、幅広い分析業務を経験している。
  • 統計検定2級/E資格/ITストラテジスト/プロジェクトマネージャなどを保有
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01.物流業界におけるDX推進

 01-1.物流業界が直面する課題

物流業界は現在、「2024年問題」をはじめとする多くの構造的課題に直面しています。2024年4月より施行された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働が制限され、輸送力不足が深刻化することが予想されています。加えて、ドライバーの高齢化と新規人材の不足による慢性的な人手不足が続いており、EC市場拡大に伴う配送需要の増加が需給ギャップを拡大させています。

さらに燃料費の高騰や物価上昇もコストを押し上げており、従来の非効率な業務フローのままでは企業収益を圧迫しかねません。これらの課題は、単なる現場の工夫ではもはや解決が難しく、構造的な改革が求められています。

また、サプライチェーン全体の透明性や柔軟性の不足も、突発的な需給変動や災害対応の遅れにつながっており、業界全体の競争力を下げる要因となっています。

 01-2.DX推進の必要性とデータ活用の役割

こうした状況において注目されているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進とデータ活用です。業務の可視化やボトルネックの把握、将来予測といった領域において、データに基づく意思決定と業務の最適化が強く求められています。

たとえば、業務プロセスのどこに時間がかかっているのか、どの配送ルートが非効率なのかといった課題を可視化し、AIやIoT、ロボティクスを使って効率化することで、少ないリソースでも高い生産性を発揮できる体制が整います。

このように、物流業界が持続的に発展していくためには、業務のデジタル化を通じて、より柔軟で強靭なサプライチェーンを構築していくことが不可欠なのです。

02.データ活用がもたらすメリット

物流領域でのデータ活用は、目に見える効果を短期間で生み出せることから、DX推進の初期段階の取り組みとして最適です。ここでは、物流業務における特に効果が表れやすい3つの代表的なメリットを紹介します。

 02-1.配送リードタイム短縮

配送リードタイムの短縮は、顧客満足度向上だけでなく、業務効率化や車両稼働率向上にも大きく貢献します。実現の鍵となるのが、過去の配送実績、道路状況、交通量、天候など多様なデータを活用したルート最適化です。AIを活用すれば、曜日や時間帯別の最適ルートを自動で算出することも可能です。

実際に、日本郵便ではAIを用いて配達順序の最適化を行った結果、

  • ・配送時間の短縮
  • ・燃料消費の削減
  • ・誤配の減少

といった成果を実現。新人ドライバーでも熟練者と同等の効率で配送できるようになり、教育負担の軽減にもつながります。

 02-2.在庫最適化

在庫管理の最適化は、欠品による機会損失と過剰在庫によるコスト増の両方を防ぐ重要な施策です。過去の販売実績やシーズン要因、地域ごとの需要傾向などをもとに、AIで需要予測を行い、それに基づいて適正在庫を維持することが可能になります。

たとえば、IoTを活用した在庫センサーによってリアルタイムな在庫情報を収集し、WMS(倉庫管理システム)と連携することで、在庫の過不足を自動検知・自動補充する仕組みも構築できます。これにより、無駄な在庫スペースの削減や在庫回転率の向上が期待され、さらにはキャッシュフローの改善にも寄与します。

 02-3.コスト削減

物流業務における主要コストである輸送費・人件費・保管費の削減にも、データ活用は大きく寄与します。輸送費については、前述の配送ルート最適化による燃費向上や積載率の向上によって、1回あたりの配送効率が改善します。

人件費については、倉庫作業の自動化やスマートグラスなどの支援ツールを導入することで作業の精度と速度が向上し、少人数でも高い生産性を確保できます。また、作業ログや実績データを収集・分析することで、無駄な動線や重複作業を洗い出し、オペレーション全体の見直しにもつながります。

このように、データ活用は単なる部分最適に留まらず、物流全体の収益構造そのものを変革する力を持っています。企業が持続的に成長するための競争優位性としても、今後ますますその重要性は高まっていくでしょう。

03.データ活用によるサプライチェーン最適化戦略と4PL

物流におけるデータ活用では、単一のプロセスにとどまらず、サプライチェーン全体を俯瞰して最適化する視点が求められます。原材料の調達から、製造、保管、配送、最終顧客への到着まで、すべての工程をデジタルで連携・統合・最適化することが企業競争力に直結します。

 03-1.需要予測

需要予測は、サプライチェーン最適化の出発点です。過去の販売実績データに加え、気象情報、経済指標、プロモーション日程、地域イベントなどの外部要因も取り入れたAI分析により、より高精度な予測が可能になります。

これにより、仕入れや製造計画の最適化、販促戦略との連動が可能となり、需給ギャップによる在庫ロスや欠品を防ぐことができます。また、繁忙期や閑散期の人員配置や輸送リソース確保の計画も立てやすくなり、コストと品質のバランスを取ることができます。

 03-2.在庫管理

需要予測に基づいた在庫管理は、無駄な在庫を抑えつつ機会損失を防ぐ鍵です。IoT機器を通じて庫内の在庫をリアルタイムで可視化することで、倉庫間の在庫バランス調整や、適正在庫の自動補充が可能になります。

また、ABC分析や回転率評価などのデータ分析を行うことで、商品特性ごとの管理レベルを最適化することも可能です。これにより、保管スペースの有効活用、作業効率の向上、廃棄リスクの軽減といったメリットが得られます。

 03-3.配送ルート最適化

配送の最終段階では、TMS(輸配送管理システム)や車載デバイスから得られるリアルタイムデータを活用することで、ルート最適化が図れます。たとえば交通渋滞や天候の変化、積載率、配送先の受け入れ可能時間などを加味して、動的に最適ルートを再計算する技術も登場しています。

この最適化により、配送リードタイムの短縮はもちろん、CO2排出量削減、燃料費の削減、ドライバーの拘束時間短縮にもつながり、SDGsやESG対応としても注目されています。配送の効率化は顧客満足度向上に直結するため、物流企業にとっても重要な差別化要素です。

 03-4.4PL(Fourth Party Logistics)

4PL(Fourth Party Logistics)は、3PL(Third Party Logistics)よりも一歩進んだ戦略的アウトソーシングの形態です。3PLが実際の倉庫作業や輸配送を担うのに対し、4PLは物流全体の統括・設計・最適化を担います。

4PL事業者は、WMSやTMSなど複数のITシステム、複数の物流業者(3PL)を統合的に管理し、サプライチェーン全体を横断的に最適化します。企業にとっては、物流を単なる「機能」ではなく「戦略」として設計・運用できるという大きなメリットがあります。

また、物流領域におけるKPI管理、コスト分析、需要予測なども担い、リアルタイムのデータ連携に基づいた迅速な意思決定支援が可能です。企業にとっては自社のコア業務に集中しつつ、専門家による高度な物流戦略の立案・実行を任せられることから、近年注目を集めています。

日本国内では、EC事業者や製造業などを中心に、複雑化するサプライチェーンの管理をアウトソースする形で4PL活用が広がっており、特にDXとの親和性が高いモデルとして今後も成長が期待されています。

このように、サプライチェーン全体を対象としたデータ活用は、単なる部分的な効率化を超え、経営レベルでの意思決定や顧客価値の創出につながります。物流の役割が「コストセンター」から「プロフィットセンター」へと変化しつつある今、データを軸とした最適化戦略の重要性はますます高まっているのです。

04.実際に物流業界で利用されているシステム

物流DXの基盤として、多くの企業で導入が進んでいるのが WMS(倉庫管理システム) と TMS(輸配送管理システム) です。これらのシステムは、業務の標準化・効率化だけでなく、データ活用による現場の可視化と最適化を可能にし、サプライチェーン全体の高度化を支えています。

 04-1.WMS(倉庫管理システム)

WMSは、在庫情報や入出庫情報、棚卸し作業など倉庫内の業務を一元的に管理するためのシステムです。バーコードやRFIDと連携させることで、在庫の位置や数量をリアルタイムで把握することが可能になります。

主なメリット:

  • ・作業指示のデジタル化による業務効率の向上
  • ・人為ミスの削減
  • ・作業員の動線・リソース配分のAIによる最適化
  • ・作業実績データをもとにした継続的改善

従来の倉庫業務は熟練者の経験に依存しており、属人化によるばらつきが課題でした。しかしWMSの導入により、業務の標準化・品質の均一化が実現し、教育コストや労働環境の改善にもつながります。

 04-2.TMS(輸配送管理システム)

TMSは、配送計画の立案から配車、運行管理、配送状況の可視化、実績分析までを一貫して行うことができるシステムです。輸配送に関するデータを集約・分析し、より効率的なルートや積載計画を自動で提案する機能も備えています。

主な機能とメリット:

  • ・AIによる最適ルートや積載計画の自動立案
  • ・GPSによるリアルタイム配送追跡と到着予測
  • ・納品状況の可視化と遅延時の即時対応
  • ・配送実績のデータ蓄積によるPDCAの高速化
  • ・拘束時間・運転時間の管理による法令対応(2024年問題)

さらに、TMSを導入することでドライバーの負荷軽減や顧客満足度向上にもつながり、持続可能な物流運用を支援します。

 04-3.WMS × TMS連携で実現する「全体最適」

WMSとTMSを連携させることで、倉庫内と輸配送の情報がシームレスに結びつき、全体最適化が可能になります。さらに、BIツールやダッシュボードと組み合わせれば、経営層へのレポーティングや意思決定にも有効に活用できます。

物流システムの導入は単なる業務効率化にとどまらず、サプライチェーン全体の可視化・最適化の基盤となるものです。自社に合ったシステムを選定・運用することで、DX推進のスピードと成果を大きく高めることができるでしょう。

05.データ活用を推進する具体的なステップ

 05-1.目的の明確化と仮説設定

最初のステップは、現場や経営レベルでの課題の明確化と仮説設定です。

配送遅延の原因は何か、在庫の偏りはなぜ生じるのかといった現象を、データで検証可能な形に言語化します。

このフェーズでは、現場の声を丁寧に拾いながら、経営層と現場の認識をすり合わせ、解決すべきテーマを明確にすることが重要です。課題の本質が明確になれば、KPI設計や導入すべき技術の方向性も見えてきます。

たとえば、「リードタイムを20%短縮したい」というKPIを掲げた場合、それを実現するには何のデータが必要か、どの工程を改善すべきか、といった仮説を立て、それに基づく検証と施策に展開していきます。

 05-2.データ基盤構築

次に、必要なデータを収集・統合し、分析・可視化可能な状態にする「基盤」を整備します。これはDXの心臓部ともいえる重要なプロセスです。

収集対象となるデータは多岐にわたります。社内システム(WMS、TMS、ERPなど)から取得できる定量データに加え、IoT機器やセンサーによるリアルタイムデータ、外部の交通・天候・市場動向データなども組み合わせることで、より精緻な分析が可能になります。

構築にはDWH(データウェアハウス)やデータレイク、ETL(抽出・変換・格納)ツールの導入が求められ、加えてデータの正確性・一貫性・更新頻度の管理体制(データガバナンス)や、アクセス権・情報漏洩対策といったセキュリティ設計も不可欠です。

将来的な拡張性や他システムとの連携性も考慮し、スモールスタートであっても堅牢なデータ基盤を構築することが、後の投資効果を最大化する鍵となります。

 05-3.技術選定と導入

データ基盤が整えば、次は実際に分析・活用するためのツールやソリューションの選定です。ここで重要なのは、自社の課題・目的に合致した技術を選ぶことであり、「流行っているから」「高機能だから」だけで導入しないよう注意が必要です。

BIツール(Tableau、Power BI など)によるダッシュボード化、AIによる需要予測・配車最適化、ロボットやスマートグラスによる現場作業支援など、適用範囲は多岐にわたります。クラウドかオンプレミスか、既存システムとの親和性、スキル習得のしやすさなども判断材料となります。

また、PoC(概念実証)を行い、実運用前に「導入効果があるか」「現場が使いこなせるか」を検証することで、リスクを最小限に抑えることができます。この段階で社内教育や操作マニュアルの整備も並行して進めておくと、スムーズな展開につながります。

 05-4.スモールスタート

いきなり全社規模で導入するのではなく、小規模な範囲から始める「スモールスタート」は、DXを定着させるうえで非常に有効な手法です。

たとえば、1拠点の倉庫業務からWMSを導入したり、特定のエリア配送にTMSを適用するなど、限定的な導入により、現場の反応・効果・課題を確認します。ここで得られた成果と学びをもとに、次の対象部署や拠点へと展開していく「横展開」へとつなげます。

また、改善効果の可視化や、現場担当者のフィードバックを積極的に取り入れることで、現場との信頼関係を構築し、現場主導型のDX文化が根付きやすくなります。

さらに、PDCAサイクルを回しながら改善を積み重ねることで、施策の精度と成果の確度を高めることができます。最終的には、スモールスタートを足がかりに企業全体のDX推進につなげていくことが理想です。

このように、明確なステップを踏んでデータ活用を推進することは、単なる一過性の施策ではなく、企業の競争力を持続的に高める基盤づくりでもあります。着実に、そして柔軟に進めることが、物流DX成功の鍵となります。

まとめ

本記事では、物流業界が直面する2024年問題や人手不足、コスト増加といった課題に対し、データ活用を通じたDXの必要性とその進め方を紹介しました。配送リードタイムの短縮、在庫の適正化、コスト削減といった成果を実現するためには、業務の可視化と分析、そして段階的な実行が鍵となります。サプライチェーン全体の最適化や4PLの活用も視野に入れながら、自社にとって最適なDX戦略を描くことが、今後の競争力確保と持続的成長に直結します。まずは自社の課題を洗い出し、できる範囲からデータ活用を始めてみることが、物流DXの第一歩となるでしょう。

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